8日目

パパ

だいすきなパパ

やさしいパパ


ぼくのこと きらいになっちゃったの?
パパは ぼくのこと きらいになるの?


なみだがでてくるよ
くるしいよ
かなしいよ


たすけてよ パパ


でも たすけてっていったら
パパは ぼくのこと もっときらいになっちゃうかな


ねえ

いやだよ

かなしいのは いやだよ




9日目






眩い黄金



眩い世界



そして、眩い、自分ではない、自分



どこか夢見心地のまま、贄は捧げられる



黄金郷に


マァムブに


そして、神に



10日目

『親愛なる我が甥へ

手紙を見たよ。どうやら大変なようだね。
心ばかりだけれども、必要そうなものをいくつか送らせてもらったよ。

噂はこちらにも届いている。賞金首というのは正直複雑な心境だけれども、国の定めたものではないから、まぁ問題はないだろう。
次期領主が賞金首という事を嫌がっている者は多いけれどね。 でも、荒っぽい連中の中には鼻が高いと喜んでいる者もいるみたいだ。


ところで、そちらにはあちこちから将来領主になるべき方々がいらっしゃっているようだね。
そろそろ闘技大会も催されるようだし、共に参加してこの機会に親睦を深めてはどうだろう。

勝手だとは思ったけれど、私の方から何人かに招待をしておいたよ。
ラージン領の今後を考えると、お近づきになっておいて損は無い方ばかりだ。

くれぐれも失礼の無いように、また、念の為に賞金首という事は秘密で頼むよ。 詳細は追って連絡しよう。

いいかい、重ねて言うけど、仕事だと思って、くれぐれも失礼の無いように頼むよ。
断るというのなら私に強制できる権限は無いけれど、返事如何では御者には帰ってくるように言ってある。

闘技大会と、黄金郷探しの幸運を祈ろう。

セルゲイ・マルティノヴィチ・ラージン』


手紙を読み終わり、グリゴリは馬車いっぱいに乗せられた「心ばかりの贈り物」と、御者に視線を投げた。
御者は、控えめに「どうなさいます?」と尋ねた。


次期領主は、不機嫌そうに舌打ちを漏らした。


 
15日目

「死などという概念は幻にすぎないのです。」

司教の言葉に、一瞬攻撃の手が止まる。
生者のような動く死体と、腐った肉体の動く死体と、白骨になった動く死体。

オリガが死んだのは半年前。
半年前に命を失った肉体は、どんな状態だろう。

頭を過る考えを振り払うように斧を振るう。


オリガはそれを望まない。
例え自分が望んでも。



 
16日目

イペ族は日常的に異物を体内に招き入れる。
それは男女の差無く、長い年月繰り返されて来た事であり、それは必ずしも安全な行為では無かった。

鋭利で硬質なもの、病気、皮膚をただれさせるもの、毒、寄生生物など、危険はいくらでも転がっている。
そのため彼等の体は強い自浄作用を持つようになり、また、日常的にそれらのものを解毒するような、あるいは耐性の付くような薬を服用する文化が根付いた。



夢を見ていた。

レグルスとカカ、イースに、リセナ、グレイマンに、カミユに、リレッタに、ペドロに、シルマリィ、ジュリ、そして、フライバイ。
叔父のイヴァンや、ラージンの私兵団の男達、いくつか言葉を交わした娘や、青年や、故郷の女達。

ミチエーリに

クリストファーに

クリスティーナに

フョードルに

オリガ


その他にも、グリゴリが今まで関わり、グリゴリが僅かでも好意を抱いた人々が、皆幸せそうに、それぞれ笑顔を浮かべている。

太陽は穏やかに地平に沈み、休もうとしていた。
周囲の黄金色の麦畑が、黄昏色に包まれる。
重そうに実を付けた稲穂が風に揺れる。


「オリガ、どうして皆笑っているんだ?」

久しぶりに、オリガに声をかけた気がする。

「それはね」

オリガは優しく笑う。ここに義父はいない。
グリゴリだけのオリガ。

「皆、幸せだからよ」

その言葉を聞いて、グリゴリも笑う。
はにかむように。

「そうか、よかった」


グリゴリは恋をしていた。
この世の全てが美しく見えるような、幸せな恋。


「グリゴリは、頑張りましたからね」

「偉かったわよ、グリちゃん」

クリストファーと、クリスティーナの双子が微笑む。
まるで親友だった昔のまま、何も変わらない。

「ありがとう、でも、皆のお陰だ」

そう答えて、仲間を見渡す。

「特に、あんたには感謝してるよ」




フライバイ先生――――――




「借りるぜグリゴリ、テメーの皮」


重い瞼を持ち上げる。

内臓が熱いのか痛いのか、よく分からない。
どこか体がふわふわして、頭がぼんやりする。

フライバイはグリゴリの首元に刃物を当てていた。
毒を盛られたな、と思う。


体調は文句の付け所がなく最悪だったが、グリゴリはどこかで安心している自分に気が付いた。
人は条件さえ揃えば簡単に人を裏切る。
いつか来る裏切りの日に怯えるよりも、裏切られるのは少しでも早い方がいい。


そうすれば、信頼せずに済む。
ただ殺せばいい、それだけ。


そう、現実というのは、こんなクソみたいなものだったな、などと、思考のはっきりしない頭で微かに思った。



※Eno31フライバイくんの結果とちょっと繋がってます