グリゴリ達は、マァムブのさらなる力を引き出すために、大量のネクターが必要だった。
ひとつふたつならともかく、大量のネクターとなると、ネクターを積極的に集めている集団でなければ所持していない。現状考えられる対象は、王宮か、それに反抗する一揆集団のどちらかだ。
 
どちらにせよ、新王を殺す事はグリゴリの目的に含まれている。
一揆に参加する事も、一応叔父との約束だ。
クリストファーに調べさせた結果、一番勢力の大きい一揆集団とのコンタクトは簡単だった。
と、いうよりは、タイミング良く向こうが大規模人員募集を行っていたのだ。

 

参加希望を受け付けた、一揆を取り仕切っているという女はルリアンナと名乗った。
ルリアンナはさしたる調査も要求もせず、ただこちらの戦闘をにこやかに観察した。
戦闘を観察したと言っても、相手役を務めた男が本気を出しているとは思えず、グリゴリは早々に合格を出されてしまった。
 
どうやら取り仕切ると言っても、女が具体的な命令を下し、それに一揆参加者が従う訳ではないらしい。
それに加えて、いくら大規模募集といっても、四桁を超える参加希望者に、ゆるい力試し。
これではネクターをバラ撒いているだけだと思われても仕方がない。
 
ルリアンナをその場で拘束し、持っているネクター全てを出すように脅迫しようか、ともちらりと考えたが、それだけのネクターと、これだけ参加希望者を集める事が可能な人物であるという事は、あまり懸命な手段だとは思えなかった。
簡単な説明を受け、最後に、と付け加えられた。
 
「参加者が参加者を襲った場合は、こちらで賞金をかけるからよろしくね!」
 
それまで適当に聞き流していたグリゴリは、少し顔を上げた。
 
「賞金?」
 
「そう、賞金がかかった賞金首は、負けるとその賞金を払わないといけなくなるの。」
 
「それを払えるほど金が無かったら?」
 
「農場のお手伝いでコツコツ貯めてもらうしかないわね。それが嫌なら、私達と一緒に一揆には参加できないわ。」
 
にい、とグリゴリの口端が釣り上がる。
カダイエの事で頭がいっぱいで考えが及んでいなかったが、そういう方法もある。
 
「つまり、負けた時に賞金を払うなら、あんたは何をしてもいいって言うんだな?」
 
にこり、とルリアンナは笑う。
邪気など感じられない、ひまわりのような笑顔で。
 
「ううん、私は何も言ってないー。うん、言ってないー。賞金はかかるって言ったけどー。」
 
「そうかい、分かったよ。これから世話になる。」
 
そう言って軽く手をひらひらさせて、踵を返す。



エンブリオの成長には、力を借りる場合とは別に生命力が必要だ。
それはマァムブとて例外ではない。
通常のエンブリオは、戦闘によって散る生命力をもって成長に当てる事が可能だが、マァムブは少し異なる。
黄金郷カダイエの力の源、巨大エンブリオのマァムブは、その生命力を捧げる相手を選ぶ。
その基準はマァムブ以外には分からない。しかし、メルンストゥーラのコイントスによって、その意志は判別できる。

つまり、コイントスをするまで、相手の生命力をマァムブが欲しているか分からないのだ。
という事は、戦闘する相手と、戦闘を行う数を増やさなければならない。
王城は広い。王の配下の者にそう日に難度も会えるとは限らない。
しかし、同じ方向から、同じだけ進む人間は、大量にいる。
そして、彼らは皆金品や財産を持っている。
 
 
不自然なほど、何もかも都合が良かった。
しかし、グリゴリはもはや、それに疑問を持つ事はしなかった。
ちらりと不安が過る事が無い訳ではなかったが、それ以上に確信をしていた。
 
これは、きっと世界をつくりかえる運命。
黄金郷は復活し、王は死ぬ。全てが上手くいく。
それが出来なくなるまでは、それが覆る事は無い。
当たり前の、実に簡単な話。
 
覆った場合の事は考えなかった。
それはその時に考えればいい。楽しい事だけを考えていればいい。
 
母の死から気を紛らわせたいだけのグリゴリにとっては、それで十分だった。