2日目

イースはヒトの言葉を少しだけ理解できる獣だ。
実際にどの程度理解できているのかは、グリゴリには知る事はできない。
言葉を投げれば、たどたどしい言葉が帰ってくるが、そこに高度な知性は感じられない。

フライバイはどういう事だか犬の真似をするヒトだ。
なぜ犬のような振る舞いをして、犬のような扱いを求めるのかはグリゴリには理解できない。
実際は知恵遅れでも頭がおかしい訳でも無い事を知っているが、口出しをしてやるほど興味が無い。


クリストファーは

種族差別の対象であるハーフエルフとして生を受け
身分差別の対象である大罪人の末裔として生を受け
職業差別の対象である刑吏の一族として生を受け

ただの平民だった頃の、幼いグリゴリの友人だった。


イペ族はその能力を使い収入としている。
各集落を巡るために、差別意識は内外共に比較的薄い一族だ。

エルフの里にも行き来があるグリゴリに、ハーフエルフは特別なものではなく
街に居を置かぬ少数民族に、身分差別は身近なものではなく
物怖じしない子供は、刑吏の事を「かっこいい」と思った


ある時期、ある事件を境に、クリストファーとグリゴリの交流は途絶えた。

再会した時には、グリゴリは平民の子供ではなく、貴族の養子となっていて

彼の心は、以前のような友情と親愛ではなく、軽蔑と失望に満ちていた。





3日目

城には兵士がいた。
兵士はグリゴリ達の事を「世界に害をなす虫けら」と言った。

最初は鼻で笑って受け流したが、ふと。
王が正しい事をしている可能性もある事に気がついた。

しかしそれは大した問題ではない。
大事なのは、虫けらなのは相手の方だと思わせる事だ。





4日目

闇に光を灯す仕事というのは美しい。

何も見えない、何も分からない状態が、ふっと軽くなる。
それは肉体だけでなく、心も救う事だ。

そんな事を、随分昔に思ったような気がする。
そして、少しだけ憧れた気がする。

今はそんな気持ちは、全く理解できないが。




 
5日目




 
6日目

黒い森の魔女に勝てなかった。



慈悲のつもりなのか、魔女は何も奪わなかった。
グリゴリは何も失っていない。

代わりにたくさんのものが産まれた。

魔女への殺意。
力への渇望。
自分への苛立ち。
過去への後悔。

略奪されなかったのは同情されたからかと思えば腹の底から怒りが湧いてくる。
しかしそれを許したのは自分の無力さ故だ。力を持っていない自分という存在が許せない。

黒い森の魔女など、簡単に殺せなければならない。
それが出来ないという事は、自分も十把一絡げの人間に過ぎないという事だ。


特別な能力など何も持っていない、ただの人間。
それを認めてしまう事は、最愛の母が誇りにしていた息子はボンクラだと認めてしまう事になる。


母の名誉のためにも、力がどうしても必要だ。
そのためには奪わなければならない。
差し出させなければならない。

エンブリオから、マァムブから、他者から。
出せるものなら、何でも。