rラージン領主夫妻死亡の報は、まず最初に当主の弟であったセルゲイに伝達された。
セルゲイはラージン領の政治を担う、ラージンの頭脳とも言える男だった。
ただ、強気の姿勢に出られると引いてしまうような、小心な男でもあった。


 グリゴリくん、大丈夫かい?
 叔父上殿…
 大丈夫な訳無いだろ…
 うん、まぁ、そうだろうね…

セルゲイは、兄のイヴァンよりも正確にグリゴリの心情を理解していた。
もちろん、オリガへの思いも。


 しかし、決めておかなければならない事はある
 特に、次の当主をどうするかとかね
 あんたがやってくれ。俺は元々ここの家の者じゃない
 そういう訳にもいかない。兄上は君を後継者にと言っていた。
 それに、貧弱で弱気な私では私兵団の粗野な奴らを纏められるとは思えないよ
 団長はそんな扱いにくい奴でもないだろ
 …団長は私の妻の愛人なんだ
 ……

 分かるかい?君がいてくれないと、私はラージン領を間男に任せるような事になってしまうんだ
 妻は気が強い
 今の暮らしを手放す気も無いし、浮気をやめる気も無い
 私の立場を利用しつつ、愛人の権力を増す事ができれば、それは喜ぶだろう
 でも、それは私は嫌なんだ
 ……
 わかっているよ。グリゴリくんが私の事情など興味が無い事はね
 でも、よく考えて欲しい

 義姉さん、オリガさんは―――君に、領主になって欲しかったんじゃないのか?
 ……!

 事務仕事に興味が無いなら私が全てやるよ。いや、むしろやらせて欲しい
 私が役に立てるのはそこくらいだろうしね
 後続も育てている。私の死後も問題は無いだろう
 ……
 大丈夫だよ、兄さんもそう難しい事をしていた訳じゃない
 ただラージン内外に対して強気でいてくれればいいんだ
 ……
 それに―――

 『いいかげんにしてください!』
 !?



 『パパはいま、おちこんでるんです!なのにじぶんのことばっかりかんがえないでください!』
 グリゴリくん、これは!?
 …エンブリオ、なのか?
 そういえば、暴走エンブリオを再形成したんだったか…
 ああ
 そういえば紹介がまだでしたね

 フョードル、その話はいい。挨拶しろ
 『はい、パパ』
 『フョードル・グリゴリエヴィチ・ラージンです』

 グリゴリエヴィチ…ラージン…!?
 ええ

グリゴリは、かつて実母オリガに向けたような笑みを浮かべた。

 俺と、オリガの子です